拡張する色彩体験

コンピュータ登場以前、色彩を扱うということは絵具などの物質の混合を意味することがほとんどでした。 現在もコンピュータを用いる際に色彩を扱う方法は多くの場合物質的、静的な考え方を踏襲しています。 これは、これまでの視覚表現のおおまかな方向性として、色彩を静的なものとして捉え、 物質的なメディアと結びつけることによって理解を深めてきたことに起因しています。 つまり色彩の静的側面からの限定的な問題を扱ってきたともいえます。 このことは、色彩のみならずこれまでの視覚的表現活動が動きを静的な表現に定着することを方向性の一つとしたことの現れでもあります。

このような状況の中、テクノロジーの進歩により赤、緑、青の3色によるRGB光を加法混色することで色彩を動的に出力する技術が発達しています。 一方、電子メディア上でこの利点を生かし色彩を扱うためには従来の静的、物質的な扱いのみでは対応しきれなくなってきています。 これを踏まえると、造形的に表現し人とコミュニケーションをとるためにはメディアの特性を熟知し造形表現要素として使いこなすだけでなく、 それを分析しあたかも科学者のように理解する必要があるように感じます。 そこから見えてくるのは、メディアの変化にともなう「色彩」といった造形概念の拡張の必要性なのです。

前述したように、絵具を扱うことは色彩を「もの」として扱うことであり、色彩は自分の周囲に外在するものでした。 近年、私たちが色彩を知覚することについて科学的な研究が進むにつれ、色彩は外在するものではなく、 私たちに内在する知覚的体験として認識されるようになってきています。このような知覚に対する認識の拡張とメディアの質の変化により、 物質的というよりは現象的な「こと」としての新たな色彩の側面が見えてきました。 つまり、色材の混合から光の混合へと広がりを見せダイナミックに表現可能な色彩は、まさに夕焼け空のような体験する現象といえます。 そして造形的に「色彩」という体験を作り出すにはこれまでの色彩の扱い方を見直し、新たなメディアの性質と結びつける必要があります。 そこで初めてメディアの性質を生かした緻密な色彩表現が可能になるのではないでしょうか。

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