->English

私たちを取り巻く現実を知り探求するためには、私たちが現実をどのように感じるのかを知る必要があります。このようなアプローチは視覚造形分野での光の変化に伴う色彩の認知・知覚の問題にもいえます。例えば印象派の画家クロード・モネは同じ風景の様々な天気や時間における光の変化を33作の連作「ルーアン大聖堂」でキャンバスに定着しています。これは表現やビジュアルコミュニケーションとしてだけではなく、うつろいゆく景色の変化をどのように感じているのかを探求し、色彩とそれを体験する人間の感性に迫る試みでもありました。このような印象派の試みは鉛板の加工技術の発展に伴うチューブ絵具の普及によって、元来変質しやすい絵具というメディアを屋外に持ち出し自然光と色彩の変化の写生が可能になったことによるところも大きいと言われています。技術の発展やメディアの変化が造形分野やビジュアルコミュニケーションでの重要な要素である色彩の新たな側面を探求する視点になることは現在も変わりないでしょう。その中でも光と色彩の電子制御を可能とするフルカラー発光ダイオード等の光の加法混色によるの色彩出力の影響は大きいです。
このような状況化、私は「私たちがみている色彩とは何なのか?色彩の動きとはなにか?」といった問題を発展させLED色彩制御技術と造形分野の色彩構成手法を用いた色彩の恒常性を再認識するためのインタラクティブな実験を試みています。現在の色彩表現において光と色彩を電子制御するフルカラー発光ダイオード等の光加法混色技術は重要ですが、赤・緑・青の色彩光によるRGB出力は人間の感じる明度・色相・彩度の心理的な尺度とは違い色彩知覚という観点では直感的に扱いにくい面もあります。これを改善するために、私は造形分野における色彩理論と色彩工学手法を参考に、独自色彩制御アルゴリズムを開発しRGB出力を明度・色相・彩度の心理量軸により扱えるようにしています。このアルゴリズムを利用することでLEDによる色彩光出力を光源色と光源の位置を心理量軸により関連づけ直感的かつ動的な色彩制御を可能としています。また造形分野での色彩構成手法にこのアルゴリズムを取り入れ物体色である壁面の色彩を構成し、光源色・光源の位置の変化に伴う色彩の恒常性を効果的に見せる色彩構成を実現しています。さらに、センシング技術と動的な色彩制御を組み合わせることで直感的に色彩操作できる起き上がり小法師型のインターフェースを開発し、揺らぐような光源変化を実現しています。
Optical ToneではLEDの色彩光制御や壁面のグラフィックパターンの色彩選定に独自のアルゴリズムを用いています。コンピュータではあらゆる入出力を数値化し計算するため、色彩出力も計算することになります。私たちは色彩を心理的に明度、色相、彩度の刺激として感じますがLEDやコンピュータモニタ等の加法混色デバイスの物理的な刺激の出力は赤、緑、青の光による出力です。このため視覚的に色彩を扱うためにはこの差異に気を配り数値化した色彩を計算する必要があります。
上に3種類の色相環を例に挙げました。上段は黄、赤、青を一次色とする視覚的な補色関係を保った色相環(ヨハネス・イッテンの12色相環)です。一方下段は赤、緑、青を一次色とする数値的な整合性を保った色相環(HSB色相環)です。中央の段には視覚的な補色関係を保ち明度差を一定にした色相環(Optical Toneアルゴリズムによる色相環)を挙げました。
どのカラーモデルも用途に応じて使い分けるものですが、右側のHSB色相環では色相の並びが数値的な整合性はあるものの、色相、明度など視覚的に一定ではありません。一方、左側の12色相環では視覚的な整合性はありますが、数値的連続性がなく計算するには扱いにくいものです。このようなことを考慮し、中央の色相環は色彩を視覚的な整合性を保ち計算できるように設計したものです。
特にコンピュータを用い色彩光と環境の色彩との関係性を構築するOptical Toneでは色彩の心理的な刺激で最も重要である明度の制御を基軸に補色など色相の関係を緻密に組み立てる必要があります。このアルゴリズムによってそれらを可能とし実空間型の色彩インタラクションを実現しています。
Optical Toneの壁面グラフィックパターンは独自アルゴリズムにより選定した色彩により色彩構成されています。壁面グラフィックパターンはライトオブジェクトが横向きに揺れることに対しての効果を考慮し縦向きのストライプに構成してあります。さらに色彩知覚の地と図の関係を混乱させるため、色彩同士の関係性を複雑にし形状を同じにした視野を覆うようなストライプに構成されています。変化する色彩光を反射させた際の視覚効果をよくするために明度を一定にした色彩を選定してあります。また、彩度を規則的に構成することで色彩光があたった際の視覚的な抵抗感・奥行感の変化を効果的に生み出します。色相に関しても3面の壁面を有効に使い色相が壁面全体で大きく変化するように構成し複数台配置されたライトオブジェクトの効果を引き立てます。
Optical Toneのライトオブジェクトは起き上がり小法師状の構造をしています。その形状は上部、下部を球状にし中央部分を棒状にすることにより視覚的な重心を上部に集めてあります。これにより発光する球体が空間を軽やかに浮遊しているような動きを演出します。また上部の重さに釣り合うおもりを下部に内蔵してあり、重さを緻密に調整することにより触れたときにおこる心地よい手応えと揺らぎ方を決定しています。この揺らぐ動きを下部球体の重心に取り付けてある三軸加速度センサーユニットによりセンシングしLEDによる色彩光出力を制御しています。色彩光は独自アルゴリズムを用いてオブジェクトの回転を色相変化、転倒を明るさの変化に対応づけ制御されています。これにより複雑な操作なしに触れることにより光源の位置と色彩光を同時に制御することを可能としています。
|